パッド夏期講習 ブルースのモダナイズ:スティービー・ワンダーのモテ方法論|うりなみの見出し画像

パッド夏期講習 ブルースのモダナイズ:スティービー・ワンダーのモテ方法論|うりなみ

ゴールデンウィークのパッド夏期講習でスティービー・ワンダーの「Love Having You Around」を取り上げました。いわゆる四部作のMusic of My Mindの冒頭にある曲ですね。

ブルージーでかっこいいですね。なんですけどコード進行をみると、「えっ?何」となる方は多いんじゃないでしょうか。

普通の調性音楽の理論ではうまく説明がつかない。まあ、ブルースはそんなものという考えはありますけど、これ、全く普通のブルース・フォーマットではないです。

Stevieはもう何もかもやり尽くしてる人ではあるんですけど、テーマの一つにブルースのモダナイズがあったと思っています。

Love Having You Aroundはその典型的な例で、整理の入り口として向いている曲です。

一曲分析するために必要な視点が、その後のソウル・ファンク・ゴスペル全般の理解にも繋がっていきますので。ネオ・ソウル勢までモテそうなものはだいたい、Stevieがやってると考えていいですかね。いずれLODでもLove Having You Aroundは取り上げます。

コード進行が普通ではない

Love Having You AroundのキーはBbです。冒頭のコード進行を書き出すと、おおむねこうなります。

Bb7 → Db7 → Eb7 → F7

このあと展開部に入って、Gb7というコードがでてきて、「なんじゃこりゃ…」となるんじゃないでしょうか。

理論を勉強した人だといろいろ説明しにくいとなるはずです。でも、これは調性音楽で説明しにくいだけで、ソウル・ファンクなら普通にあるものです。

最後はウォークアップを経てBb7に戻る。ここもちょっとStevie節というか、ゴスペル的なやつですね。

Bb7の次にDb7が来ること。Db7はBbから見て短3度上です。普通のブルース進行ならBb7の次はEb7(IV7)に行くはずです。

調性音楽的にはモーダルインターチェンジで借用したIIIMaj7とかbIIIMaj7あたり、つまりメジャー7thが来るのは分かる。

それがいきなりドミナント7thで来る。

そして、展開部に出てくるGb7です。Gb7はBbから見ると短6度上にあります。これは調性音楽で考えると意味不明ですよね。

短6度の場所にコードがあることはあります。

ナチュラルマイナーから借りてきたbVIMaj7とか、あるいはサブドミナントマイナー系の代理で使われるのはある。

しかしそれがドミナント7thになっているというのは、調性音楽とは違う。

いままでにも取り上げましたけど、ブラックミュージックだと、全てのコードをドミナント7th化することが出来るわけですね。

まあ、これはマイナーブルースなんかでは使われることはある。

どっちにせよ調性音楽で使われる体系とは別ということですね。

Love Having You Aroundは、普通の調性音楽の理論だと説明しにくい。全体のフィールとしてはブルージーなんだけど、ブルースでもない。

でも、ロジックはあります。で、これは実は今までもずっと使われてるロジックです。説明されたら単純なんですけどね。

ルートはナチュラルマイナー、コードはコンスタントストラクチャー

この曲が変な曲に見えるのは、調性音楽の語彙、機能和声の語彙で説明しようとするからです。

スティービーはこの曲を、調性音楽のイディオムではなく、別のイディオムで書いています。強進行を軸にしたものじゃない。

その別の語彙とはどういうものか。こういう整理ができます。

ナチュラルマイナーのルートにコードを置くことが出来る。

ら、乱暴過ぎる…

いや、でもそういうの、ネオ・ソウルまで普通にあるわけですよ。

ホンマに。

ではBbナチュラルマイナーを見てみましょうか。 64Pad Explore 立ち上げて御覧頂いてもいいですね。

画像

Bbナチュラルマイナースケールの構成音はBb、C、Db、Eb、F、Gb、Abです。

ルートはBbナチュラルマイナースケールの上を動かし、その上に乗るコードは全部ドミナント7thで揃える。

え、それだけ?。それだけです。

Love Having You Aroundに出てくるコードでドミナント7thを持つコードのルートを並べると、Bb、Db、Eb、F、Gb。すべてBbナチュラルマイナースケール上にあります。

スケールから外れた音はルートとして使われていません。

コード進行の中でコードの種類と構造が変わらず、平行移動していく。コンスタントストラクチャーと呼分でしたね。

この二つを組み合わせると、調性音楽の語彙では説明できなかった全部のコードが、一気に説明できるようになります。

Bb7、Db7、Eb7、F7、Gb7、すべてBbナチュラルマイナースケール上のルートに、ドミナント7thを乗せたもの。

これだけです。短3度上にドミナント7thが来る。短6度上にドミナント7thが来るのもおかしくないですね。

調性音楽の枠組みではなくて、ナチュラルマイナースケール上の同一タイプのコードとして書かれているから。

この曲でも、Stevieは意識的にコンスタントストラクチャーでやってます。まあ、厳密に言えばド頭は7thで次がな9thだけど、ブルースの常套句で作ってるということです。

ブルース進行はI7、IV7、V7という三つのドミナント7thで構成されています。Cブルースで言えばC7、F7、G7。

これを「I-IV-V」というローマ数字で書くと機能和声的に見えますが、ミクソリディアンモードを切り替えてると考えたほうが自然です。

C7弾いてるときにFのトライアド弾くのなんかブルースの基本的な語法ですけど、アヴォイドなんて言葉じゃ説明できないわけです。

ぶつかってる?それがブルースのブルースらしさだったりするわけじゃないですか。

ですからブルースという音楽は、最初からモードを切り替えていく音楽として考えることも出来る。

まあ、そもそもブルース、調性音楽で説明できないですしね。

だから、ブルージーなコードを共通させて、一般的な1度、4度、5度に動かすというものにひねりを加えた物と考えられる。

スティービーがLove Having You Aroundでやっているのは、このブルース進行の発想を拡張したものだと考えると、スッキリするんじゃないでしょうか。

そして、ブルースが調性音楽で説明できないということをもう少し考えましょうか。

そもそも4度がドミナント7thなのも説明出来ないんですよ。

メジャーキーだと。

4度がドミナント7thになるのは、メロディックマイナーです。

便宜的にキーCと言ってるわけですけど、初めから調性音楽とは違う。だって、メロディはブルーススケールだったりもするわけですしね。

画像

64Pad Explorerだと、同主調や3種のマイナーも表示できますよ。絶賛発売中ですよ。一家に1つ。友達にも一つ。気になるあの人にも一つ。何ならおじいさん、おばあさんにプレゼントもありです…

なんでナチュラルマイナーなの?

ナチュラルマイナースケール上のあらゆるルートに同一タイプのコードを乗せるというのは、調性音楽の重力から逃れられます。

ちょっと見てみましょうか。4和音で同一タイプでコードが連続するもの、CメジャーならDm7とEmしかありませんよね。

画像

ダイアトニック・コードを覚えると、すぐに転調や、モード、モーダル・インターチェンジコードの識別が出来ます。HPS会員のかたは、アプリも無料ですよ。お得すぎますね…

コードはミクソリディアンのドミナント7thで揃える、というブルースの基本構造はそのまま保ったまま、b7、b3、b6、2と言った所をルートにしたら、調性音楽らしさから逃れる。

まあ、3度進行を増やすというとネオ・リーマン理論と接続できるかもしれないけど、たぶんそんなの考えてないと思うんですよね。

「お、これ、ナチュラルマイナー上で動かしたら、モテそう…」こんなものでは?

モーダルなものが調性音楽的な重力から逃れようとするわけでから、まあ、当たり前なんですよね。

なので、ブルースのモダナイズをStevieがしようとしたというのは牽強付会と言われるかもしれないけれど、ある程度の妥当性はあるかなと。

ブルースの「コードごとにモードが切り替わる」という性質を保ったまま、強進行の縛りを外して、ルートの可動範囲を広げたとも言えるわけです。

ジャズとの違い

ジャズが進んだモーダル・ジャズの方向、つまり一つのモードに長く留まってドミナント7thを薄める(4度堆積などに置き換える)方向とは、ベクトルが違います。

ジャズはモードに留まる方向に進化したのに対して、ソウルやファンクはモダナイズはモードを動かす方向に進化した。

4度堆積はそんなに使わないです。フレーバー的というか、トライアドの第二転回形動かすみたいな物が多いんじゃないですかね。

まあ、ジャズもモーダルなものに飽きて、調性音楽的なものやモードを動かすものになるんですけど、スタイルの違いはあるので、やたらsus2やsus4,4度堆積コードを使うとらしくなくなってしまいます。

このあたり精緻に分析してるのはない。まあ、ソウルやファンクやゴスペル、そもそも譜面も渡されないのが普通ですしね。

まあ、でもStevieはモテの達人ですから、ブルースを聞かないような人への目配りも抜かりがないです。しらんけど。

ウォークアップとオンコード処理

ずっとブルージーだったのに、ターンバックでゴスペル的な語法を持ってくる。

か、かっこええ。そりゃバツ2にもなりますよね…

ベースが順次進行で上がっていくウォークアップと、その上に乗るオンコード処理でモテようとしたんでしょうね。

スティービーがここで使っているのは、ベースが3度から5度に向かって順次進行で上がるラインの上に、トライアドの転回形を乗せてる。

これもまあ、ひねってあるんです。

具体的にはBbから5度のFに向かうウォークアップで、ベースがD音のときにFmトライアドを乗せるという形。基本形でいかないところに老獪さを感じますね。

確信犯ですね…これは有罪です…

コードネームで書こうとすればFm/Dとか、Dm7(b5)とか、いろんな書き方ができますが、調性音楽的な説明だとどれもしっくり来ません。

でも、これBb7(9)のアッパーですよ。

画像

64Pad Explorerを使えると、AIを使えるよりモテる!バツ2の私が自信を持っておすすめします…

トライアドの転回形を順次進行のベースの上に並べていく、というのは、ゴスペルやモダンR&Bの常套句。

Stevieはゴスペル的なパッシングコードのイディオムもめちゃくちゃ持っています。

いずれゴスペル・スタディでも取り上げますけど、StevieのこのKoncks Me off My Feetも凄いんやで‥

ブルースのモダナイズという本体部分の語法と、ゴスペル由来のウォークアップ語法。

この二つをモテそうに配分しているのがStevieのブルースのモダナイズと言えるんじゃないでしょうか。

ウォークアップそのものは奥が深いので、別の機会に特集としてまとめたいと思っています。

パッドやって需要あるんですかね…

いや、今が我慢のしどころ。ブルー・オーシャンでボロ儲けや!

おっと、こんな素敵アプリがこんな低価格で売られてるとは…連打してくれてもいいんですよ…

メロディの作り方

Stevieはメロディも工夫しています。

Love Having You Aroundのメロディは、一見ブルージーですが、よく聴くとペンタトニック一発で作られているわけではありません。

ところどころに9thや、コードの内声から取った音が入っている。完全にコードトーンから作られているとも言えませんが、ペンタトニックを一発で使い切るような単純な書き方はしていない。

ブルース的な語法を使うときでも、必ず何かしら捻る。9thを入れる、コードトーンの内側にメロディを潜らせる、半音で滑り込ませる、というような細工を入れる。

モテへの執念を感じますね…

モテるために工夫するという意志は、スティービーのほぼ全作品に通底しています。断言しちゃっていいかな。訴えられたらどうしよう…

コード進行がブルースをモダナイズしているのと同じように、メロディもブルースをモダナイズしている。

Stevieの凄さって、ハーモニーの新しさやメロディの美しさにもあるんですけど、こういう曲に本当に深い理解や革新性が見えるところにいつも感動しますね。

プリンスもそういう所ありますね。ブルースのモダナイズはキャリアを通してやっているので。

これがコピーするときの難しさにも繋がります。

まあ、Stevieの曲はどれも難しい。ゴスペルやジャズ、ブルースを深く理解したうえで、コードをしっかり肉体化する必要がある。

コード進行をBb7-Db7-Eb7-F7と取れたとしても、メロディが単純なBbブルーススケールで取れるかというと取れないわけですから。

影響は色々あるけれど、それはまたブルース・スタディやファンク・スタディで

Roy Ayersもナチュラルマイナーのこのやり方を使います。またやりますよ。

ネオソウルやモダンゴスペルにも引き継がれています。まあ、今だとドリアンで動かす方が多いかな。

Stevieで同タイプだとこれなんかも動画でやったことあるんですけど、LODでやろうかな。

この手法をいろいろ発展させたのもありますねえ。

80年代UKソウルのメロウなメジャー7借用、などなど。SADEとかIncognitoとか。90年代のネオ・ソウルまでモーダルなアプローチでは普通にあるんですよ。

今後のLick Of The Dayや、ブルース・スタディ、ファンク・スタディの記事で取り上げます。

こういう曲が変な曲に聴こえないのは、私たちがブルース以降の世界に生きてるから。モードと調性音楽がレイヤーした世界に生きているから。

理論の側がそれに追いついていないだけ。

ブルースを源流とする音楽を、機能和声の枠で記述するのは無理がある。

ブルース自身の論理で記述し直すこと。周縁にしない。

HPS本編も再構成するんですけど、今まで書いてなかったことはどんどん書いていこうと思います。

パッド夏期講習、Substackで日次を連絡しています。無料でやっています。ぜひぜひご参加ください。

HPSに加入している方は64Pad Explorerのアプリや、Pad Sensei Keysも追加料金なしに手に入る。

おいおい、オトクすぎるだろ…

記事数が増えたら、予定通り値上げですよ。加入した人はずっと同じ値段。早ければ早いほどお得。

決断力がある人はモテますよ…

NISAでオルカンよりモテます!

あ、ハードコア派の皆さん、プロジェクトファイル必要ならおっしゃって下さいね。LODにするまでにお時間頂くんですけど、先に練習したかったらお渡し出来るので。